組織・理念

野生動物が身近になる昨今、私たちの暮らしにさまざまな影響を与える野生動物の問題は一般的な関心事となりつつあります。農業被害をはじめとする人との軋轢、少子高齢化する農山村での対策、突発的な市街地への出没、遺伝的な多様性を消失させる外来種の侵入、遭遇や感染症によるリスク、地域的な分布の拡大と消滅。

多様な問題が発生する一方、地域の特性に応じて多様な課題が山積しており、問題解決への道のりが遠く感じることも稀ではありません。

私たち”サル管”は、専門的な立場から、ニホンザルをはじめとした野生鳥獣による問題解決を支援したいと考えています。対策技術の向上と担い手の育成をサポートし、人と野生鳥獣の問題を解決に導くことで、両者が持続的に共存できる地域づくりをお手伝いします。また、全国の行政・学術団体・市民・農林業従事者・事業者等の連携を促進し、社会課題の解決と地域の創生に寄与することを最終の目的として活動していきます。

顧問メッセージ

サルカンに期待すること

現在、日本では少子高齢化と大都市への人口集中によって過疎の地域が拡大しています。また、過去の造林事業や土建事業によって森が針葉樹林化し、分断されて、シカ、イノシシ、サルなどの野生動物が畑や人里に出てくるようになりました。農作物の被害や人身事故が頻発し、このままでは安心して暮らすことができなくなりつつあります。

さらに、近年はUIJターンが流行り、都市の若者たちが「関係人口」、「流動人口」として地域へ流入するようになりました。これらの若者たちは地域の伝統ある暮らしを知らず、野生動物の扱い方も心得ていないため、大きな被害や事故につながる恐れがあります。

これらの事態を防ぎ、地域の人々が安全・安心な暮らしを送るために、野生動物と適切な接触を保ち、被害を防除していかねばなりません。本来ならば、こうした仕事は国や地方自治体が担うべきものだと思いますが、日本ではドイツやカナダのように狩猟免許を持って野生鳥獣の管理に当たる専門家が圧倒的に不足しています。


山極壽一(京都大学名誉教授)

こうした事情を踏まえ、2018年に環境省から当時日本学術会議会長であった私に、「人口縮小社会における野生動物管理のあり方の検討」をするように審議依頼がありました。さっそく多様な分野の専門家を集めて審議し、翌年にその結果をまとめて回答しました。内容は、地域資源を持続的に利用するためのルールや仕組み、科学的データと市民に開かれた学術研究の仕組みを構築し、そのための地域コミュニティの役割を明確にして、統合管理のための省庁間の連携と自治体の専門組織力を強化する必要があるということです。そして、地域に根差した野生動物管理の専門職人材を育成する教育プログラムを早急に立ち上げる必要があると提言しました。

ニホンザル管理協会(通称サルカン)は、こういった現況の下に専門家たちが互いに呼び掛けて集まり、ニホンザルをはじめとした野生鳥獣によるさまざまな問題解決を図り、地域の活動を支援する一般社団法人です。日本に生息する野生鳥獣のなかでは、ニホンザルが最もよく研究されており、70年以上の歴史があります。しかし、地域によってその生態は大きく異なっており、知性が高くて新しい事態にもすぐに適応してしまいます。一律の対処の方法では被害は軽減できず、これまでに蓄積された各地の経験と科学的な手法を組み合わせ、市町村や県の境界を越えてその動きをコントロールする必要があります。また、現場ではサル以外の野生動物への対処も同時に必要になります。

サルカンはそのための知識や技術を集積し、様々な問題に対処できる解決策を考案し実施してきた専門家が集まっています。ぜひ、現場で困っている人々や自治体と緊密な連携を取りながら、全国のモデルとなるような有効な解決策を見つけ出し、実施に移していただきたいと思います。それが結果として地域の社会力を高め、若い世代が流入してくるような魅力になることを期待しています。

メンバー

理事

中川 尚史(Naofumi NAKAGAWA)

京都大学 大学院理学研究科生物科学専攻 教授

宮城県金華山島、鹿児島県屋久島の純野生ニホンザルや、アフリカ・カメルーンのパタスモンキーとタンタルスモンキーを対象に行動観察をベースとした研究を長年行ってきた。また日本霊長類学会の理事として、和歌山県のニホンザルとタイワンザル交雑問題にも深く関わってきた。現在、同学会会長。主な編著書に、『日本のサル―哺乳類学としてのニホンザル研究』、『野生動物の行動観察法―実践 日本の哺乳類学』、『The Japanese Macaques』など多数。詳細はHPを参照のこと。

森光 由樹(Yoshiki MORIMITSU)

兵庫県立大学 自然・環境科学研究所 准教授

獣医師の立場からニホンザルをはじめ、野生動物の保全や管理に必要な研究や技術開発を行っている。ニホンザルは発信機を装着して加害群の特定をすることで、効果的な個体数調整や位置情報の発信が可能となる。麻酔を用いた不動化はそのための重要な技術であり、国内外で2000頭を超える霊長類の生体捕獲経験を基に最新の技術を現場に提供する。

山端 直人(Naoto YAMABATA)

兵庫県立大学 自然・環境科学研究所 教授

前職の三重県農業研究所研究員のころから、三重県伊賀市でのサル群管理と地域主体の被害対策に関わり、伊賀市では全域でサル被害を大幅に削減することに成功した。獣害を解決可能な地域の仕組みは、地域社会の種々の課題解決につながると考え、被害を軽減できる地域の体制や、それを支える地域政策の在り方を研究する。

鈴木 克哉(Katsuya SUZUKI)

NPO法人里地里山問題研究所 代表理事

前職の兵庫県立大学/兵庫県森林動物研究センターでは、行政機関と連携して効果的なニホンザル被害管理手法を開発し住民支援体制を整備する。2015年に兵庫県丹波篠山市でさともんを設立し、確実な手法で「害」を軽減するとともに地域を活性化していく新しい「獣がい」対策の普及を進めている。人材不足の自治体を民間団体として支援していく。

清野 紘典(Hironori SEINO)

株式会社野生動物保護管理事務所 取締役

多くの現場経験から今、求められる技術は何かを探求し、確実かつ効率的に成果をあげることをモットーに、ニホンザル個体数管理の手法開発やモニタリングをベースとした効果的な捕獲手法を実践。府県や市町村におけるサル対策の計画立案から現場実務まで総合的にサポートする。

清野 未恵子(Mieko KIYONO)

神戸大学人間発達環境学研究科 准教授

農山村地域における人と野生動物との共存に関する研究を軸としながら、持続的な自然共生社会の構築やそうした社会を担う人材育成に関する研究を展開。ニホンザルの行動・生態に関する豊富な知見をベースに、地域活性化を見据えた幅広い視野で、問題解決やアイデア創発を促進するワークショップを数多く手がけている。

監事

山田 一憲(Kazunori YAMADA)

大阪大学 人間科学研究科 講師

ニホンザルが持つ豊かな個性を明らかにするために、子ザルの行動発達、社会行動の地域間比較、野外での認知実験、深層学習を用いた個体識別プログラムの開発などの研究を行ってきた。岡山県真庭市勝山と兵庫県淡路島に生息する2つの餌付けニホンザル集団を対象とした調査を継続し、これらの集団の管理支援を行っている。共著者として『共生学が創る世界』、『助ける』など。詳しくはHPを参照してください。

顧問

山極壽一(Jyuichi YAMAGIWA)

京都大学名誉教授